Rein Müllerson

国際法との絡みで答えるならば、『内政不干渉』や『武力不行使』などの国際法の原則を無視し、自由とか民主主義をアフガニスタンやイラクにまでも武力で広げようとした米国の試みが、『イスラム国』のようなテロ組織を生んだ大きな要因だったといえるでしょう。自分たちとは別の世界に属するといえるこれらの国々に自分たちの価値観を植えつけることができる。そんな米国の単純素朴さが、中東全体に混乱をもたらしてしまったのです。 確かに世界には、民主主義を拡大する余地、その民主的な達成を深化させる余地はあるでしょう。けれど、歴史は民主主義や市場経済の勝利に不可避的に向かうのだから、これを後押しするべきだという考え方には、大きな問題があります。 これまでの人類史を見る限り、いかなる社会、経済、政治システムも長期間そのままの姿を保ったものはない。民主主義が例外であるとは言えないと私は考えています。 2011年に米英仏中心の多国籍軍の介入によってカダフィ体制が崩壊したリビアでは、その後過激派が台頭し、安定とはほど遠い。リビアでもフセイン体制崩壊後のイラクでも、これらの国の体制転換を唱えた人々がめざした状態は訪れていません。民主主義を急いで進展させようとする試みは、深刻な紛争や内戦などの大変動をつくり出しました。